「熊本県酒造研究所」における最も大きな業績のひとつが、野白金一氏の手によって分離・培養された「熊本酵母」です。それまでの酵母が安定的な酒造りを重視していたのに対し、「熊本酵母」は酸が穏やかで、華やかな香りを作ることができる新たな酵母。また、発酵力が優れているので、同じ原料を用いても、キレのある辛口のお酒や甘みと芳醇な香りが際立つお酒など、さまざまなタイプの清酒を杜氏のイメージ通りに造ることが可能です。そのような性質の良さが認められ、日本醸造協会の「きょうかい9号酵母」として採用されました。1968(昭和43)年に(このきょうかい9号酵母の)全国への頒布が始まると、各地で香りのいいお酒がつくられるようになり、吟醸酒人気の火付け役となりました。
「熊本酵母」は酔って楽しむお酒から味わうお酒へ、日本酒が新たな一歩を踏み出すきっかけとなった酵母とも言えるでしょう。発見から60年以上経ちましたが、現在でも「きょうかい9号」は全国でもっとも多く使われている酵母の一つです。
熊本県酒造研究所では今でも、この「きょうかい9号酵母」とは別に自社で保存・管理された「熊本酵母」を頒布しています。
熊本地震の際には、全国の酒造家たちから心配の声が届いた「熊本酵母」。
さまざまな災害を想定した厳重な保管体制がとられていて、無事だった
清酒を造る上で欠かせないのが米・水・麹、そして酵母と呼ばれる微生物の存在です。明治以前の清酒造りで用いられていた「蔵付き酵母」による醸造では(種菌を使わず、空気中や道具に付着している酵母により自然発酵するのを待つため)美酒を生み出すものがある一方で、酒質が安定しないなどの問題も多く、杜氏たちの悩みの種でもありました。こうした課題を解決するためにできたのが、「きょうかい酵母」。全国の優秀な酵母を科学的に培養し、日本醸造協会(当時の醸造協会)から全国の蔵元へと頒布することでようやく、各地で安定した質の清酒が醸造されるようになりました。
左/日本醸造協会で頒布される「きょうかい9号」のアンプル
右/寒天を入れた培地のなかで白く見えるのが酵母のコロニー
※蔵元や造る清酒のタイプによって異なります。
1. 本洗い
米を水に浸す桶を念入りに磨き、酒造りの準備。
2. 精米
純米酒や吟醸酒、大吟醸酒など、つくる酒に応じて米を磨く。
3. 洗米・浸漬(しんせき)
仕込み水で洗い、精米歩合に応じて水に浸す。
4. 蒸し
甑と呼ばれる巨大な蒸し器に米を入れ、蒸し上げる。
5. 製麹(せいぎく)
蒸米を程よい温度に冷まし、麹菌を植えつけて麹室に寝かせることで、
発酵に必要な麹を育てる。
6. 酒母造り(しゅぼづくり)
麹と水を入れた桶に、酵母と蒸した米を加える。
10日間〜3週間で酵母が培養されて酒母となる。
7. 仕込み(しこみ)
酒母に麹、蒸米、水を入れて仕込む。
麹と蒸米を3回にわけて加えていくことを3段仕込みと呼ぶ。
8. 搾り(上槽)
できあがった醪を酒と粕にわける工程。槽搾り圧搾機を使った搾りなどがある
9. 澱引き(おりびき)・ろ過
酒の中の沈殿物を澱と呼び、これを取り除くこと。
10. 火入れ(貯蔵火入れ)
酵素を失活させて品質を保持するために低温殺菌を行う。
11. 貯蔵
15~20度で貯蔵。熟成しすぎると色や雑味などが現れることもあるため、
厳密な温度管理を行う。
12. 調合・割水
異なる酒質の酒をブレンドし、目標とする酒質に仕上げる。一定の品質を保つため、
必要に応じてブレンドしたり、 原酒に水を加えてアルコール度数を調整する。
13. 火入れ(瓶詰め火入れ)
再度、低温加熱殺菌。貯蔵前の火入れだけを行うものを「生詰め」、
瓶詰め後の火入れだけを行うものを「生貯蔵」、
1度も火入れを行わないものを「生酒」と呼ぶ。
14. 瓶詰め
完成した酒を瓶に詰めた後、ラベルを貼って出荷する。
熊本酒造組合
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